Dear. アカリ





ポストの中にじゃなくて、ハーバルさんが持ってきたものだからびっくりしたよ。

きみの狙いどうりになって、なんだかすこし悔しいな。でも、嬉しかった。



返事を書こうかどうか迷ったんだ。


あれから、1年経った。もう1年経ったじゃない。まだ1年なんだ。

きみの手紙は、嬉かったけれど、ほんとうは少し戸惑ったんだ。


きみが読むことのない手紙を書いて、そんな自己満足でなにが楽しいんだろうって。

でも、気づいたよ。

自己満足でもいい。気持ちに整理つけるために、自分のために、きみに手紙を書こうって思ったんだ。




押し花は今でも綺麗だったよ。すごいね、普通は枯れちゃって茶色くなっちゃうのに。

サクラがすごい喜んで、今度一緒に作ってあげることになっただよ。




あと、僕が君に手紙を書こうって思ったのは、昨日見た夢を見たことを思い出した、ってこともあるんだ。


アカリが、ずっと僕の名前を呼んでいる夢。


僕はアカリを探して、青々とした牧草地や、鳥小屋、動物小屋、

色とりどりの作物が実っている畑を探しているのだけれど、アカリの姿が見つからなくて。


「アカリ。」と名前を呼ぶと、

夢は途切れてしまって、ただの白い天井が僕の視界に映っている。


僕はくしゃりと髪を掴んで、おもわず重い溜息が出してしまって。



夢だって分かっていたんだ。


アカリが僕の名前を呼ぶわけがないのだから。

青々とした牧草地も、鳥や動物達も、色とりどりの作物だって、もうこの牧場にはないのだから。




でも、もう一度目を瞑ってみる。


牧草地。動物小屋。畑。

すべてがあの頃のままに、思い出すことができる。

夢の中でもその色鮮やかさは変わらないよ。


ただ、そこにアカリがいないだけだ。




あの太陽の下で輝く、きみの焦げ茶色のショートヘアも。

何度も何度も見つめたきみ瞳も。

無邪気なほど、楽しそうに笑うきみ表情も。

しなやかに伸びるきみ手足も。

いつも、僕の名前を呼んでくれたきみ声も。


何度も、何度だって頭に思い描くことが出来る。ただ、夢の中にきみがいないだけで。


手紙を読んでいる僕の横に、きみがいたらいいのに。





アカリが手紙を書いた日からもう3年。

僕は、相変わらずキルシュ亭で働いているよ。

ユバ先生は、最近料理の腕が上がったねって褒めてくれた。

サクラもおいしそうに食べてくれるから、毎日作りがいがあるよ。


アカリのためにもう一度料理が作れたらどんなに楽しいだろう。



今日だって、ね。


今日が何の日か覚えていないわけないだろう。4年目の結婚記念日。

ちゃんと、ケーキ焼くから。きみの好きなケーキ。




思ってたことと書きたいことで、なんだかぐちゃぐちゃだ。

手紙なんて書くの初めてだったからかな。


アカリが最初で最後の人。アカリにだけ、特別だよ?





From. チハヤ


X10 夏の月28日





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